文春の特ダネで黒川辞任、検察庁法改正見送り。それにケチをつけた新潮記事
新潮の記事がなかなか面白いところを書いている。逐一考えてみたい。
まずは、5月18日付けの読売新聞がトップ記事で、《検察庁法案 見送り検討 今国会 世論反発に配慮》 の見出しで、《政府・与党 近く最終判断》 と書いた。
(以下引用)
ちなみに朝日新聞は、《河井夫妻、30人に700万円超》の見出しで、《参院選前に持参 県議・市議ら証言》と続く。河井案里参院議員が初当選した昨年7月の参院選前に、夫の河井克行前法相が地元の県議・市議らにカネを配ったことを報じる記事だ。
河井案件も大きなテーマではあるが、世間の一大関心事は、検察官の定年を延長する検察庁法改正案の方だろう。実際、18日に安倍首相は読売新聞が報じた通りに見送りを表明。朝日や他紙はこのネタを追いかける他なかった。読売の鮮やかな“抜き”だった。
永田町関係者によると、
「安倍さん自身、世論調査の数字を気にしていました。SNSでは、〈#検察庁法改正案の強行採決に反対します〉という動きが各界の著名人を巻き込む形で拡大しましたからね。あんまり芳しい数字が出ていないということが見えて、今国会での成立は見送りましょうと、今井さん(尚哉首相補佐官)が進言し、それをキャッチした読売が書いたということでしょう。この法案については、杉田さん(和博官房副長官)も元々ポジティブではなかったようです。安倍さんは、ほとぼりが冷めた秋の臨時国会で、“再チャレンジ”するはずです」
この法案でキモとなった、あるいは、政府の側から言ってキモとされてしまったのは、「検察人事への政治介入」だった。この法案が通れば、内閣などが検察の最高幹部の人事を恣意的に行える余地があるという指摘だ。検察は首相だって逮捕する特権を与えられている以上、政治のみならず色んな勢力から独立しているべきだという建前だ。裏返せば、検察は清く正しく美しくあってほしいという国民の願いが見え隠れする。
安倍首相にとって誤算だったのは、「検察人事への政治介入」と取られかねない人事が今年2月に行われたということだった。黒川弘務東京高検検事長の定年延長問題だ。
オッサンの誕生日がここまで話題になることはこれまでなかったかもしれない。黒川氏の誕生日は2月8日。今年のこの日で63歳となる黒川氏は、検事長の定年を迎えるはずだったが……。
「政府は黒川さんの定年を半年延長する閣議決定をしました。“そんなことは前代未聞だ、黒川は官邸と近いから優遇されている”という議論が沸き起こり、国会でも追及が始まり、それがなかなか収束しなかった。ちょっと収まって来たかなというところで、検察庁法改正案を強行採決しそうだという気運が出てきた。安倍官邸が世の中をナメていたところは多分にあるでしょうね」
その一方で、黒川検事長に対するバッシングも秋霜烈日とまでは言わないが、ヒドイものになっていった。
「法務検察の内外に図らずも敵を作ってしまったかもしれません。“黒川さんは仲良しの記者と懇談をしていて、麻雀卓を囲んでいる”というような話が流れていました。普段なら、情報交換とか法務検察をどうしていくかという知見を得る手段として、むしろ評価されるとは思います。ただ、コロナ禍と法案でタイヘンなタイミングで間が悪いと言われても仕方ないかもしれません」
別の関係者はこう明かす。
「緊急事態宣言下の5月1日にも、新聞記者ら3人と卓を囲んでいたようです。これを嗅ぎつけたメディアが黒川氏に、“記者とカケ麻雀をしていた?”と取材をかけたということです。黒川氏はその事実をもちろん官邸には伝えています」
しかし、
「今井さんが安倍さんに、検察庁法改正案の延期を進言したのはその報告の前のこと。アベノマスクや星野源動画でスベったりして世間が総スカンの中で、安倍さんとしては更なる世論の猛反発を受けるのは避けたいと考えていた。このまま法案の強行採決に突っ込んだら、野党は情けない体たらくとはいえ、丁寧に運営している感じを出さないと政権は打撃をこうむる、そういうことでしょうね」
週刊新潮WEB取材班
2020年5月19日 掲載
(引用おわり)
さてこの記事、よくできているようで肝心のところがあいまい。黒川のマージャンに文春が取材をかけ、それで黒川が官邸に連絡していたが、それより前に今井らの官邸は法案見送りを決めていた、というくだりが問題だ。
黒川はいつ官邸に連絡したのか?肝心の日付がない。
週刊文春が取材をかけて、それを黒川が官邸に通報したのは5月10日の週だったとすれば、それにあわてて今井らが見送りを安倍に進言して見送りが決まったのではないか?
新潮はライバルの文春に特ダネを抜かれて悔しいこともあって、この点をあいまいにしつつ、文春の特ダネで政治が動いたんじゃないよ、と言いたいのだろうが、それにしては説得力がない。